
沖縄県豊見城市。県庁所在地である那覇市に隣接することからベッドタウンとして栄え、人口に占める子どもの割合は、全国屈指の数値を誇ります。そんな同市の教育委員会は、『「ゆめ」「まなび」「ひと」が響むまちの教育』という理念を掲げ、グローバル社会を生きる力の育成に力を注ぎ、海外の学校との交流やネイティブスピーカーとの協働など、さまざまな主体と手を携えながら英語教育を推し進めてきました。
そんな豊見城市教育委員会が、新たなパートナーとして選んだのがUM English Lab. でした。UM English Lab. が配信している教材をベースに、両者が協働してオリジナル教材へとアップデート。そして2026年3月13日、その教材を使った特別授業が、市内の伊良波中学校で実施されました。
授業終了後、豊見城市教育委員会で教育長を務める赤嶺美奈子さんと、本プロジェクトを主導した豊見城市教育委員会 指導主事の宮良さん、特別授業で教壇に立った伊良波中学校教諭の前大さんへのインタビューを実施。
豊見城市教育委員会が、UM English Lab.からの打診を受け入れ、特別授業の実施を決定した理由やオリジナル教材と特別授業に込めた思い、そして今回の取り組みで得た手応えを聞きました。
多彩なコラボレーションを通じて、「グローバルコンピテンス」を育成する
まずお話を聞いたのは、豊見城市教育委員会で教育長を務める赤嶺美奈子さんです。かつて教員として、英語科を担当していたという赤嶺さん。なぜ、UM English Lab.からの打診を受諾し、特別授業の実施に踏み切ったのでしょうか。同市が目指す教育の姿と、特別授業実施の狙いなどを聞きます。
——豊見城市教育委員会としては、どのような目標を掲げて学校教育を推進しているのでしょうか。その中で英語教育が担う役割をどのように認識していますか。
赤嶺教育長:私たちは『「ゆめ」「まなび」「ひと」が響むまちの教育』という理念を掲げています。これを形にするために重点を置いているのが、「主体的・創造的な学び」「グローバル社会を生きる力」「安心できる居場所づくり」という3つの取り組みです。
これからの時代を生きる子どもたちに求められるのは、常識にとらわれずゼロからイチを生み出す創造性や、問題発見・課題解決力、多様性の受容、AIとの共存、そしてグローバルコンピテンスだと捉えています。グローバルコンピテンスとは、多様なバックグラウンドを持つ人々とコミュニケーションを図り、協働しながらグローバルな課題の解決策を見出す力のこと。こうした力を伸ばすための教育に力を入れているんです。
その中で、英語教育は「多様性を受容する力」や「グローバルコンピテンス」の育成に欠かせない立ち位置にあります。豊見城市では、語学力の向上はもちろん、多様性や異文化理解、創造性、情報活用能力などの育成に力を入れ、国際交流を中心にさまざまな取り組みを推進してきました。

——具体的には、どのような取り組みを実施してきたのでしょうか。
赤嶺教育長:たとえば、沖縄県うるま市にある私立インターナショナルスクールであるAMICUSとの取り組みです。同校が主催するサマースクールに、市内の小中学生60名が参加できるよう参加費を全額補助し、AMICUSの中学英語教師による英語教諭向けワークショップも実施しました。
また、アメリカ総領事館のご協力をいただき、豊見城市が主催するイングリッシュサマースクールにネイティブスピーカーのボランティアの方々に参加していただきました。さらに、2025年1月から3月にかけては、同領事館を通して市内の中学校英語教諭が「気候変動への意識を高める英語教授法についてのオンラインプログラム」に参加。2026年5月には、アメリカ建国250周年スピーカープログラムの一環として、伊良波中学校へ講師を派遣していただきました。
国際交流の面では、台湾や香港の小学校の教育旅行を一般社団法人沖縄観光コンベンションビューローが仲介し、市内の学校で交流会を実施。他にもさまざまな企業・団体にご協力いただきながら、市内の教職員と子どもたちに国際交流の機会を提供しています。
洋楽を用いた授業を普及させ、グローバル教育を加速させる
——今回のUM English Lab. との特別授業も、そんなコラボレーションの一環に位置づけられると思います。初めてUM English Lab. の取り組み内容を知ったとき、どのような印象を抱きましたか。
赤嶺教育長:教員時代、洋楽を活用した授業をやっていた経験があるので、とても共感が持てました。当時から洋楽を通して英語に触れてもらうことの有用性を感じていましたし、洋楽の魅力を伝えるための素晴らしい取り組みだなと。あわせて、授業改善の一環として先生方が活用できる一つの手法だと感じたんです。
——2026年3月13日、無事に授業を終えることができました。振り返って、どのような手応えを得られましたか。
赤嶺教育長:当日は議会対応があり、実際に参観することはできませんでしたが、写真や動画を通して授業の様子を見させてもらいました。子どもたちが自然と洋楽に合わせて英語を口ずさんでいる姿が印象的でしたね。こういった経験が、今後の自発的な英語学習につながっていくのではないかと期待しています。
——今回の公開授業には、市内の教職員のみなさんや教育関係者が多数お越しくださいました。実際の授業をご覧になられた先生や教育委員会の方々からはどのようなお声が届いていますか?
赤嶺教育長:「音楽を通して、英単語や文法だけではなく外国についての知識も身につけられる内容になっている点がよかった」「英語が苦手な生徒でも、授業に洋楽を取り入れることで主体的に学ぶきっかけになると感じた」といった声が届いています。
また、「授業で洋楽を使用する際には歌詞に注意が必要だが、ボブ・マーリーの曲は最適だと感じた」「ワークシートなども無償で活用できるのであれば、ぜひ授業に取り入れたい」という反応もありましたね。

——豊見城市教育委員会としては、今後どのような点に力を入れていきたいとお考えでしょうか。
赤嶺教育長:2027年度には台北市政府教育局との連携協定が締結されます。これをきっかけに台湾との対面交流をさらに推進し、グローバル教育に力を入れていきたいと考えています。
また、これまで市内の教職員には、UM English Lab.の教材や音楽を使用した授業改善について幾度となく周知してきました。授業を参観された先生方が、自走しながら授業改善に活かしてくれることを期待しています。

きっかけは「授業に洋楽を活用すること」への共感
赤嶺教育長につづいてお話をうかがったのは、豊見城市教育委員会で指導主事を務める宮良さんと伊良波中学校で英語科を担当する前大さんです。宮良さんにはこの特別授業の準備から実施までをリードしていただき、前大さんには教材のアップデートにも参加していただくだけではなく、特別授業の教壇に立っていただきました。特別授業の実現に奔走していただいたお二人に、教材との出会いから授業当日の手応えまで、現場の視点から語っていただきます。
——お二人は、いかにしてUM English Lab. を知ったのでしょうか。
宮良さん:ある知り合いから、最初にオンラインでUM English Lab.が発信している教材をご紹介いただいたんです。教育長も私も、かつて教壇に立ち英語を教えていたのですが、授業で洋楽を活用していたこともあって「いいよね」と。しかも無償で使えて、すぐに授業で活用できる教材としてまとまっている。これであれば現場の先生方にもおすすめできると感じ、教育委員会から各学校に紹介することになりました。
最初はチラシを配布し、「授業の帯活動として、あるいは隙間時間などで活用してください」と紹介していて。そうしているうちに、UM English Lab. を教えてくれた知人から、今度はご担当者である寺嶋さん(ユニバーサル ミュージック合同会社 USM洋楽 マーケティング・ストラテジー部 マネージャー寺嶋真悟)から、「教材を使った授業をしませんか」と打診いただいたんです。
市内の先生方を招いた公開授業を実施し、「こういうふうに使えるんだよ」と示せば、より使いやすくなるんじゃないか、ということで。そこで伊良波中学校、特に積極的にさまざまな取り組みを行っている前大先生に授業を担当していただきたいと打診したところ、同校の校長先生も前大先生もご快諾いただき、実施に向けた準備が始まりました。

——前大さんは教育委員会を通じてUM English Lab. を知ったのですね。
前大さん:そうですね。私自身、中学校時代に授業で洋楽を聞いて、家でその歌を練習した経験があるんです。そういった経験を通して、英語の発音などを学びました。だから生徒には、洋楽に親しみを持ってもらいたいなと思いながら、教壇に立っていました。
しかし、指導要領が変わり、だんだんと教えることが増えていく中で、なかなか洋楽を聞かせる時間が割けなくて。ALTのバーリー先生がいるときは、洋楽などを活用しながらリアルな英語に触れる時間を取るようにしていたのですが、実際に歌う時間を確保するのは難しかったんです。
今回このお話をいただいて、UM English Lab.の教材を見た際、実際に歌ってみるだけではなく、歌のバックグラウンド、アーティストが曲に込めた思いや、その背景にある文化や歴史を学べる点がすごくいいなと。ですから、宮良さんからの打診を受けることにしたんです。

こだわり抜いたのは、「歌の背景」を学ぶための仕掛け
——今回の特別授業では、UM English Lab.が発信している無料教材をカスタマイズした教材を使用していましたね。
宮良さん:はい。元の教材も素晴らしいのですが、せっかくの機会なので私たちの思いを込めた教材を一緒につくらせていただこうと、教育長や前大先生にも意見を聞きながら、寺嶋さんと協働して教材のアップデートしていくことになったんです。
授業実施の数ヶ月前から何度もオンラインでやり取りをしながら、「こんな要素も加えたい」「スライドの文言をこんな風に変更したい」と寺嶋さんに要望を伝え、アップデートを繰り返しました。特に重視したのは、生徒たちが受動的に説明を聞くだけではなく、発話したり歌ったりする機会を増やすことですね。

——教材をアップデートするにあたって、特にこだわったのはどのような部分でしょうか
宮良さん:生徒たちがしっかりと曲の背景やメッセージを受け取れる仕組みをつくることです。曲に込められたメッセージを理解した上で、気持ちを込めて歌う機会を提供したいと考えていました。
子どもたちにとって重要なのは「歌えた」という体験です。さらに言えば、ただ歌うだけではなく、歌詞の意味やアーティストがそこに込めた思いまでを理解した上で歌うことが大切だと考えています。曲のことを深く理解した上で歌う経験は、より一層「歌えた」という感覚を強化してくれるのではないかと。
——前大さんはいかがですか。
前大さん:私は、他教科とのつながりがある授業にしたいと考えていました。英語だけで完結するのではなく、これまでに社会科などで得た知識との結びつきを感じられること、あるいは「教科」の枠を超えて、社会や世界について学べる授業にしたいと。
1回の授業で完結するのではなく、家に帰ってから「今日の授業で習った、あのことについて調べてみよう」と思えるような、あるいは今後の学生生活を通した学びのきっかけになるような内容を目指しました。

「英語に苦手意識がある子が、笑顔で歌っていた」
——授業を無事に終えることができた今、授業に音楽を取り入れる意義を改めてどう感じているかお聞かせください。
宮良さん:授業を見ていて感じたのは、音楽、ひいてはアートが持つ力の大きさです。細かなことまで説明せずとも、訴えるものがあったり、よくわからないけれど楽しめたり。今回、授業を実施したクラスの中には、英語が苦手な子もいると聞いていました。それでも、みんなが楽しみながら授業を受けているように感じたのは、そういった音楽の力があったからこそなのではないでしょうか。
前大さん:本当にそうですよね。宮良さんの言う通り、あのクラスの中にも、英語の成績がなかなか上がらない生徒がたくさんいるんです。成績が上がらないために苦手意識を持ち、英語そのものが嫌いになってしまう子も少なくありません。しかし、今回の授業ではそういった生徒も笑顔で歌っていたんですよね。その姿を見て、本当に涙が出そうで……。
そうした経験の積み重ねが、英語に対する苦手意識を払拭してくれると思いますし、苦手意識がなくなれば「もうちょっと英語を勉強してみようかな」「他の曲も歌えるようになりたいな」という気持ちも芽生えると思うんです。
たった1回、50分の授業ではありましたが、生徒たちのいきいきとした姿を見て、改めて音楽の力と手応えを感じました。生徒たちには、この経験を今後の自信につなげていってもらいたいと思っています。

——どのような要素が、英語に苦手意識がある生徒さんの主体的な授業参加を後押ししたのでしょうか。
前大さん:UM English Lab.側にご用意いただいたワークシートによるところが大きいと思います。今回の授業で使用したのは、Bob Marley(ボブ・マーリー)の「Three Little Birds」という曲です。ワークシートには、曲の歌詞やその日本語訳はもちろんのこと、歌詞にルビが振ってあるのですが、このルビが生徒たちの大きな助けになったと感じています。
実際、授業が終わった後、生徒たちに「難しかった?」と聞くと、ほとんどの子が「今日は簡単だった」と。1人だけが「僕は難しかったです」と言っていましたが、その子も「でも、カタカナが書いてあるからなんとか歌うことはできた」と、そこまで難しさを感じている様子はありませんでした。
英単語をただカタカナ表記にするだけではなく、実際の発音を踏まえた表記になっているんですよね。だからこそ、ルビを読むだけで自然とネイティブのように歌える。それが生徒たちの「うまく歌えている」という感覚を生み、積極的な姿勢につながったのではないでしょうか。
私たちとしてもこういった教材を自作し、授業で活用したいという思いはあるのですが、自作するのはかなりの時間がかかります。そのため、現実的にはなかなか難しい。そういった状況の中、無料でこのような教材を使えるのはとてもありがたいですね。

「歌わせるだけ」で終わらせない、これからの授業づくり
——今後、教育委員会としては今回の取り組みをどのように発展させていきたいと考えていますか?
宮良さん:今回の授業には市内の先生方や教育、マスコミ関係の方々もお招きしました。実際、たくさんの方々が来てくれましたし、広くUM English Lab.の教材やそれを活用した授業内容を紹介することができたと感じています。
もちろん、私たちからこの教材の活用を強制することはありませんが、特別授業を観覧した先生方がうまくこの経験を活かしてくれることを期待したいです。教育委員会としては、こういった外部組織が発信している教材の紹介のみならず、国際交流の実施などを通して先生方の授業改善をバックアップしています。その一つの手段として、引き続きUM English Lab.の情報発信も続けていきたいと思っています。
——前大さんは、今後どのようなことにチャレンジしたいと思いましたか?
前大さん:英語学習を通して、世界を知ってもらう機会を増やしていきたいです。今回の授業でいえば、ジャマイカという国に関する知識であったり、あるいは「平和」や「貧困」について考えるきっかけを提供できたと思っています。
洋楽を聞き、歌うことでリアルな英語に触れるだけではなく、その背景にある文化や歴史を知る——そういった経験は、きっと子どもたちの世界を広げることにつながるはず。ですから、今後はさらに洋楽を活用した授業づくりに力を入れていきたいと思っています。

Writing : Ryotaro Washio