【洋楽で知る世界のいま】第7回:BE:FIRSTのリメイクカバーが話題!
ジャクソン5「I Want You Back」の功績と彼らが築いたボーイバンド文化のプロトタイプ

Published :

 身近なトピックを通して海外ポップミュージックの醍醐味をわかりやすくガイドする音楽コラム「洋楽で知る世界のいま」。第7回はBE:FIRSTによるリメイクカバーで注目を集めるジャクソン5の名曲「I Want You Back」が与えた影響を深掘りすると共に、彼らが原点となったボーイバンド文化の系譜を辿っていく。

 4年連続の紅白歌合戦出場、2026年5月の初のスタジアムライブ開催決定など、破竹の勢いで躍進を続けるダンス&ボーカルグループ、BE:FIRSTがデビュー4周年を記念した初のベストアルバム『BE:ST』をリリース。リード曲として先行公開した収録曲、ジャクソン5「I Want You Back」のリメイクカバーが大きな話題を集めている。

 1969年に発表されたジャクソン5のメジャーデビューシングル「I Want You Back」は、アメリカのポピュラー音楽史の中でも特にセンセーショナルな一曲として語り継がれている。ミシガン州デトロイトに拠点を置くソウルミュージックの名門レーベル、モータウンが新たなスターを世に送り出すために総力を挙げて作り上げたこの曲は、当時11歳だったマイケル・ジャクソンの傑出した才能を一気に世界へ知らしめる役割を果たした。制作に当たってはモータウン社長のベリー・ゴーディを中心とする専任チーム、ザ・コーポレーションが結集。既存のR&Bグループとは異なる、ポップで若々しく広い層に届くサウンドを目指して緻密に構築されていった。歌詞のテーマは「恋を失った後悔」を題材とした普遍的なもので、マイケルの感情表現が最大限に輝くよう意図されている。

 楽曲の特徴としてまず挙げられるのが、ウィルトン・フェルダー(クルセイダーズ)が弾く有名なベースラインだ。跳ねるようなフレーズが曲全体を力強く牽引し、R&Bとポップとファンクが絶妙に融合したサウンドを形成。さらにピアノやストリングスによる軽快でカラフルなアレンジが加わることにより、曲ははちきれんばかりのポジティブなエネルギーを発散する。そこに乗るマイケルのボーカルは幼い少年の声とは思えないほど情感豊かで、リズムのキレや表現力は早くも完成を迎えている。純粋さとソウルフルさを併せ持つ彼の歌声は聴く者に強烈なインパクトを与え、のちの栄光を予感させるに十分だ。

 瞬く間に全米チャートを制した「I Want You Back」の成功は、当時の音楽シーンに凄まじい衝撃を及ぼしている。まず、モータウン内の世代交代の象徴としてジャクソン5が浮上したことにより、ポップミュージックのマーケットにおける黒人アーティストの立ち位置に大きな変革がもたらされた。また、1950年代のフランキー・ライモン&ザ・ティーンエイジャーズのような前例はあったものの、ティーン市場で黒人グループがこれほどの支持を受けたケースは画期的で、ポップスにおける多様性の拡大に大きな貢献を果たしたことも特筆すべき点だろう。そして、歌だけではなくダンス、ファッション、キャラクター性といった総合的なエンターテインメント性でも注目を浴び、ジャクソン5は一躍世界的なアイドルになっていく。

 「I Want You Back」が後世に与えた影響は計り知れない。ファンクとポップを自然に融合させたアレンジは後進のアーティストの重要な参照点となり、特にベースラインは音楽理論や演奏技法の観点からも研究され続けている。また、ヒップホップやR&Bではサンプリングの素材として頻繁に使用され、そのレガシーが現代の音楽にまで浸透している事実は今回のBE:FIRSTの他、TWICEや若き三浦大知擁するFolderらのカバーにも明かだろう。もちろん、「I Want You Back」はマイケル・ジャクソンのキャリアの出発点としても極めて重要な作品で、のちに「キング・オブ・ポップ」の異名を取ることになる彼の歩みに確固たる土台を築き上げた。


 総じて「I Want You Back」は、卓越した制作体制、革新的なサウンド、若き天才の存在、そして音楽業界の価値観を刷新した歴史的意義がひとつに結晶した名曲だ。リリースから半世紀以上が経った現在でも色褪せず、世界中で愛され、分析され、再解釈され続けているのは、その音楽的完成度と文化的インパクトがいかに大きかったかを物語る確かな証左といえるだろう。

 「I Want You Back」で鮮烈なデビューを遂げたジャクソン5は、1960年代末から1970年代にかけて世界的な人気を博した兄弟グループだが、その存在は単なるポップスターに留まらず、後世のボーイバンド文化に決定的な影響を与えた「原点」として語られる機会が多い。彼らが生み出したサウンド、パフォーマンス、ビジネスモデル、そしてアイドル像は、80年代以降のニュー・エディションやバックストリート・ボーイズ、さらに21世紀のワン・ダイレクションやBTSに至るまで、ボーイバンドの基本構造として受け継がれている。

 まず音楽面での大きな特徴として挙げられるのが、ポップスとソウルミュージック(R&B)を融合させたキャッチーなサウンドだ。「I Want You Back」や「ABC」などのヒット曲に代表される軽快で耳に残るメロディ、強烈なコーラス、そしてメンバー間の掛け合いを活かしたボーカルアレンジは、のちのボーイバンドが踏襲する王道スタイルの基盤となった。特に複数のメンバーが役割を分担しながら歌い、曲の中でハーモニーを生み出す形式は、ニュー・キッズ・オン・ザ・ブロック、バックストリート・ボーイズ、イン・シンクらに継承されている。ジャクソン5の音楽は単なるモータウンサウンドの成功例ではなく、ボーイバンドが世代を超えて共有する音楽的フォーマットを形作ったと言えるだろう。

 パフォーマンス面での影響も非常に大きい。ジャクソン5は歌とダンスを完全に融合させ、ステージ全体で観客を魅了するトータルエンターテインメントのスタイルを確立した。シンクロしたダンス、観客とのコール&レスポンス、センターに立つマイケルの圧倒的な存在感。これらの要素はのちのボーイバンドにとってステージングの基本原則となり、ボーイズIIメンやバックストリート・ボーイズ、さらにはK-POP勢に至るまで、現在のボーイバンドのライブ演出に深く影響を及ぼしている。センターのスターを軸にしつつ複数の個性がグループを構成する彼らのモデルが、現代のアイドルやK-POPグループでも採用されているのはきっと皆さんも思い当たる節があるはずだ。

 ジャクソン5は少年グループをポップスターとしてプロデュースして、ビジネス的に大成功させた実質的な最初の例としても重要だ。モータウンによるマーケティングは、テレビ出演やバラエティ番組での露出、キャラクター性を活かしたグッズ展開、若年層を中心としたファン作りなど、今日のボーイバンド産業の基礎となる戦略を次々と打ち出した。このビジネスモデルの基本構造はニュー・エディションやバックストリート・ボーイズを育てたプロデューサー陣にも受け継がれ、世界規模で巨大化したK-POPアイドル産業にも少なくない影響を与えている。

 文化的な側面から見ても、ジャクソン5は少年スターの在り方を根本から変えた存在だった。黒人の少年たちがアメリカ全土でアイドルとして受け入れられたことはエンターテインメントの歴史において前代未聞で、キッズアーティストの可能性を広く認識させることにつながった。また、マイケル・ジャクソンの早熟な才能は若くしてショウビジネスの世界に足を踏み入れた後続のアーティストにとって大きな励みとなり、BTSのメンバーをはじめとする多くのアーティストが彼をロールモデルに挙げている。

 このように、ジャクソン5は音楽、ダンス、ビジネス、文化のあらゆる面で現代ボーイバンドのモデルを最初に提示した存在といえる。その影響は一向に衰えることがなく、BE:FIRSTよるリメイクカバーの登場に明らかなようにむしろ世界的なボーイバンドカルチャーの発展とともにますます強く意識されている印象だ。彼らが築いたフォーマットは時代を超えて多くのアーティストによってアップデートされながらも、根本的な構造は変わらず継承されている。ジャクソン5は、まさに「ボーイバンドの設計図」を描いたパイオニアとして音楽史の中心で確かな存在感を放ち続けているのだ。

 BE:FIRSTがジャクソン5の「I Want You Back」をカバーした背景には、グループとしての原点を見つめ直すと共に、ボーイバンドのルーツと現代性を接続しようとする明確な意図が感じ取れる。ここまで触れてきた通り、1969年に世界的ヒットを記録したオリジナルは以降のボーイバンド像を形づくった象徴的な楽曲だ。BE:FIRSTはそんな歴史的名曲をベストアルバムのリード曲として選ぶことで自身の音楽的ルーツを示すだけでなく、現行シーンを代表するボーイバンドの矜持として「I Want You Back」をいまの視点から再解釈する挑戦に踏み出したのだ。

 BE:FIRST版「I Want You Back」のプロデューサーを務めるのは、BMSGのCEOを務めるSKY-HI、数々のBMSG作品のプロデュースを手掛けてきたSunnyのコンビ。ここで彼らは大胆にも生バンドの録音をアナログ機材で収録してそれをサンプリングして再構成するという、オリジナルへの敬意と現代的なヒップホップ的手法を融合したアレンジに挑んでいる。そして単なる再現ではなくBE:FIRST流儀のボーカルワークやラップを加えることにより、完成した楽曲は見事にリスペクトとアップデートの両立を達成している。

 BE:FIRSTによる「I Want You Back」はボーイバンドというジャンルが持つ歴史的文脈を踏まえつつ、彼らがその系譜のなかで何を受け継ぎ、どう未来へ繋げていくのかを示す象徴的なプロジェクトといえるだろう。名曲の継承と現代的表現の両面から、彼らの音楽観と姿勢が強く浮かび上がる実に意欲的な試みだ。

Related Article

Related Article

Social: