【洋楽で知る世界のいま】第6回:『KPOPカールズ!デーモン・ハンターズ』から聞こえるディズニー/ピクサー作品と通底するメッセージ

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身近なトピックを通して海外ポップミュージックの醍醐味をわかりやすくガイドする音楽コラム「洋楽で知る世界のいま」。第6回はNetflixのアニメーション映画『KPOPガールズ!デーモン・ハンターズ』。カリスマ的な人気を誇るK-POPの3人組ガールグループ、HUNTR/Xがデーモンハンターとして活躍するさまを描いた同作は6月20日に配信開始後、アメリカ、カナダ、ドイツ、イギリス、ベトナム、台湾、韓国など、59の国や地域で視聴数1位を獲得。わずか2ヵ月強で『イカゲーム』を抜いてNetflixの累計視聴数歴代トップに躍り出た。

この『デーモン・ハンターズ』の驚異的な成功にはさまざまな要因が考えられるが、ディズニー/ピクサーを筆頭とするここ10年ほどの(主に子供向け)アニメーション映画の潮流を調査/研究し尽くした結果の賜物との印象が強い。たとえば映像面では『スパイダーマン:スパイダーバース』(2018年)で定評のあるソニー・ピクチャーズ・アニメーションの最先端技術が駆使されている一方、HUNTR/Xのメンバーそれぞれが仲間と支え合いながらコンプレックスを克服して自己受容を深めていく物語はディズニープリンセスの定義を現代的にアップデートした『アナと雪の女王』(2013年)と重なるところがある。

そんな『アナ雪』の要素に加え、アジアのフォークロア(民間伝承)を背景にしていること、ファンカルチャーを描いていることなどを踏まえると、思春期の中国系カナダ人少女が主人公の『私ときどきレッサーパンダ』(2022年)からはより多くの共通点を見出せるかもしれない。また、アジアのフォークロアをベースにしたファンタジーアクションという点では封建時代の日本を舞台にしたアメリカ製作の『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』(2016年)も想起させる。

さらに視野を広げていけば、主人公に秘められたアイデンティティがある変身物ということでリンクする『美少女戦士セーラームーン』シリーズや『プリキュア』シリーズ、悪魔退治という点においては英語タイトルがその名も『Demon Slayer』の『鬼滅の刃』も思い浮かぶ。スーパーパワーを持った幼稚園児3人組が悪と戦う『パワーパフガールズ』のK-POPバージョン、なんて見方も可能だろう。

こんな具合に近年のディズニー/ピクサー作品を中心にしたさまざまなアニメーションの集積の上に成り立っている感のある『デーモン・ハンターズ』だが、これは物語のテーマやコンセプトのみならず映画の大ヒットの原動力のひとつである音楽にも同じことが言える。『デーモン・ハンターズ』の挿入歌は実際にK-POPの最前線で活躍しているプロデューサー/コンポーザーが多数参加していることからサウンドの完成度に耳を奪われがちだが、ストーリーと有機的に絡み合った歌詞も実によく練られている。

全米シングルチャートで8週にわたって1位を獲得したHUNTR/Xによる主題歌「Golden」は、その最たる例だろう。この曲で打ち出されている自己肯定のメッセージ、いかなる困難や他者からの期待に屈することなく自らの可能性を信じ抜く姿勢は、『アナと雪の女王』の「Let it Go」(「ありのまま」の自分の解放)、『アナと雪の女王2』(2019年)の「Show Yourself」(「本当の自分」に出会うことで過去の痛みと未来を受け入れる)、『モアナと伝説の海』(2016年)の「How Far I’ll Go」(「自分の道を探しに行く」という内なる声の肯定)などに通底している。

また、「Golden」には悪魔と戦うHUNTR/Xの決意表明、恐怖に立ち向かうことで未来を切り開く覚悟も歌われているが、これも『アナと雪の女王2』の「Into the Unknown」(不安を抱えながらも未知へ踏み出す)や先述した『モアナ』の「How Far I’ll Go」(安全な島を離れて大海原に出る勇気)の系譜を汲むテーマだろう。これらはすべて、未知に挑戦することで初めて自分の可能性を見つけることができる、と訴えている点において一致している。

そして、HUNTR/Xのアイデンティティの象徴である「Golden」のタイトルは悪魔を封印する結界「ホンムーン」のメタファーでもあるが、このホンムーンが彼女たち3人の歌のエネルギーによって作られていること、その力を高める原動力がHUNTR/Xのファンの声援であることからもわかるように、「Golden」には絆と共鳴を通じて生み出される力を讃えるメッセージも有している。これは『ミラベルと魔法だらけの家』(2021年)の「Dos Oruguitas」(家族の絆が変化を受け入れる力になる)や『ラーヤと龍の王国』(2021年)の「Lead the Way」(信じ合いが未来を作る)などの歌詞と付合するもので、「共同体の強さ」はディズニー/ピクサー作品においてある種のスタンダードとして歌い継がれている題材だ。

さらに付け加えると、「Golden」の「光は誰にでも宿る」という根本のコンセプトは多様性の肯定も示唆している。これについては『私ときどきレッサーパンダ』の「Nobody Like You」(自分らしさを愛する)や『マイ・エレメント』(2023年)の「Steal the Show」(異なる存在同士が出会うことで生まれる輝き)など、同系統のテーマの曲はここ数年で増えてきた印象だ。

こうして振り返ってみると、ディズニー/ピクサーのアニメーション映画が主題歌/挿入歌で扱ってきたテーマの変遷が朧げながら浮かび上がってくる。ざっくりとまとめるならば、2013~1016年ごろまでが自己解放、2017~2019年ごろまでがアイデンティティの探求と未知への挑戦、2020年代に入ってからは多様性や共同体、違いを超える愛。「Golden」はそんな流れを集大成しつつ、K-POP流儀のパワフルかつグローバルな表現を通して作られた楽曲といえるだろう。

もっとも、これは「Golden」に限ったことではなく『デーモン・ハンターズ』のその他の挿入歌、特にHUNTR/X絡みの曲の大半には同様のメッセージが反映されている。自己主張と自信、美と強さが共存した「How It’s Done」。真実との対峙と告白、過去に負った傷からの再生/統合を歌った「What It Sounds Like」。HUNTR/XのRumiとSaja BoysのJinuが内なる葛藤と向き合い、自由と解放を希求する「Free」――『デーモン・ハンターズ』が新鮮な衝撃に満ちあふれているのはまちがいないが、必ずしも「突然変異」ではないことは音楽面を掘り下げていくだけでも理解できるはずだ。

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